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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)35号 判決 1976年4月28日

原告 小山禮吉

被告 通商産業大臣 ほか一名

訴訟代理人 玉田勝也 ほか六名

主文

原告の被告通商産業大臣に対する訴えを却下する。

原告の被告東京瓦斯株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  まず、被告通産大臣に対する訴えの適否について判断する。

1  ガス事業法第一七条第一項による通商産業大臣の認可が供給規定の全面的変更についてされた場合、認可全部が取り消されれば、供給規程はもとの規程のまま存続するし、右認可のうち可分な部分が抽出されて取消しが求められ、それが取り消されれば、その可分な部分に対応する変更に係る新しい条項が消滅し、もとの条項が存続するものと解せられる。それ故、その抽出された可分な部分に対応する変更に係るもとの条項と新しい条項とを対比し、その内容に実質的な変更がない場合には、その可分な部分は、何人の法律上の地位ないし権利関係にも影響を及ぼさないという意味において処分性を欠くというべきである。また、変更認可の可分な部分に対応する変更が新しい条項の付加に係る場合、その可分な部分が取り消されれば、右付加がなかつたこととなるが、その付加により法律上の地位ないし権利関係に影響を受けないものは、右可分な部分の取消しを求める法律上の利益を欠くといわねばならない。

ところで、被告通産大臣に対する本件訴えは、同被告が昭和四六年三月二〇日付公第七七一号をもつてした旧規程を一般ガス供給規程に変更するについての認可のうち、旧条項から新条項への変更に係る部分を可分な部分であるとして抽出し、その取消しを求めているものであり、右認可の事実は当事者間に争いがない。そして、右変更は、旧条項を別紙三記載の部分を除く新条項に変更する部分と新条項のうち別紙三の部分を新たに付加する部分とからなるので、以下この二つの部分を分けて処分性又は訴えの利益を検討することとする。

2  新条項のうち別紙三記載の部分を除くその余の部分について

右の部分が旧条項の内容を実質的に変更したものであるかどうかを遂一検討する。

(一)  旧条項の「使用者の都合により」という文言は新条項では「使用者の申込みに伴い」と変更されている。ところで旧規程においては、使用者からの供給申込みに伴い本支管の延長をする場合につき、あたかも使用者の都合による延長と使用者の都合によらない延長とがあるかの如く読めないではないが、<証拠省略>により旧規程の他の条項とを比較検討しても、使用者からの供給申込みに伴い本支管を延長する場合、使用者の都合によらない延長を前提とする規定はなく、旧条項の趣旨からみても、右にいう「使用者の都合により」との文言は、「使用者の申込みに伴い」と全く同義に用いられたものと解すべきである。そしてこのことは、<証拠省略>により認めうる被告東京ガスの運用の実態に照らしても明らかである。

この点について原告は、「使用者の都合により」とは、使用者の特殊事情ないし使用者側に帰責されるべき原因に基づく場合のみをいうと主張する。しかしながら、右の主張は、そもそも旧条項は特殊使用者についての規定であるとの前提に立つ議論であるが、旧条項をそのように限定して解釈しなければならない根拠はないから、右主張は採用できないし、右主張にそう<証拠省略>の記載も採用できない。

そうすると、右の変更は、単に表現を改めて明確にしたにすぎず、その内容を変更したものではないというべきである。

(二)  旧条項の「推定使用量」の文言が新条項の「予定使用量」と同意義であることは文理上明らかである。

(三)旧条項の「供給施設に要する工事費」の文言が、新条項では「本支管および整圧器((3)の整圧器を除きます。)の設置に要する工事費」と変更されている。ところで、旧規程によれば、供給施設とは導管、整圧器及びガスメーターをいい、導管とは本支管、供給管及び内管をいうものと規定されている(旧規程1の2の(8)ないし(11))。しかし、右のうち供給管については右旧規程IIIの12の(6)で被告東京ガスが工事費用を負担することとする旨規定されており、内管、ガスメーター及び使用者のために設置する整圧器の工事費用の負担については明示的に規定されていないけれども、右各施設が使用者個人のために設置されるという事柄の性質上それは使用者の負担に帰すべきものであることは当然である。したがつて、旧条項の「供給施設」とは、右旧規程Iの2の(8)ないし(11)に規定されている供給施設から供給管、内管、ガスメーター及び使用者のために設置される整圧器を除いた本支管及び使用者のために設置する整圧器以外の整圧器を意味していたものというべきである。そうすると、旧条項の右の点の変更は旧条項の意味内容を変更するものではないといわなければならない。

(四)  <証拠省略>によれば、旧条項にいう「別表第5の当社(被告東京ガス)の負担額」と新条項にいう「別表第2の当社の負担額」との間には、何ら変更がないことが認められる。なお、同被告の負担額が一定の金額をもつて規定されているため、物価の高騰により使用者の負担額は実質的に増大することとなるが、それは規定に変更があつたかどうかの問題とは無関係の事柄である。

(五)  以上のとおり、新条項のうち別紙三記載の部分を除くその余の部分の変更は、いずれも旧条項の表現を改めて明確にしたにすぎず、その意味内容を実質的に変更するものではないことは明らかである。したがつて、本件認可のうち、右変更に対応する部分の認可は、何ら個人の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすものではないから、抗告訴訟の対象とはならないと解すべきである。

3  新条項のうち別紙三記載の部分について

別紙三記載の部分は、特定ガス発生設備(ガス事業法第二条第三項参照)によるガスの供給の申込みに伴い一般ガス供給規程によるガスの供給を予定して本支管を敷設する場合の規定であるが、原告のした本件申込みが特定ガス発生設備によるガスの供給の申込みでないことは、原告の主張自体から明らかであるし、原告が現に特定ガス発生設備によるガスの供給を予定している等の事実は原告の主張しないところである。したがつて、本件認可のうち別紙三記載の部分に対応する部分の認可は、原告の法律上の地位ないし権利関係に直接影響を与えるものではなく、原告は右認可部分の取消しを求める法律上の利益を有しない。

4  そうすると、本件認可の取消しを求める原告の被告通産大臣に対する訴えは、不適法である。

二  本件認可の取消しを求める原告の被告通産大臣に対する訴えが不適法である以上、本件認可が取り消されるべきことを前提とする原告の被告東京ガスに対する本件不当利得返還請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないといわなければならない。

三  以上によれば、原告の被告通産大臣に対する訴えは不適法であるからこれを却下し、原告の被告東京ガスに対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 時岡泰 青柳馨)

別紙一

旧規程IIIの12の(1)

使用者の都合により本支管を延長する場合においては、使用者の推定使用量に必要な大きさの供給施設に要する工事費が別表第5の当社負担額をこえるときは、その差額を工事負担金としていただきます。

別紙二

一般ガス供給規程IIIの13の(7)

使用者の申込みに伴い本支管を延長する場合において、使用者の予定使用量に必要な大きさの本支管および整圧器((3)の整圧器を除きます。)の設置に要する工事費(特定ガス発生設備によるガスの供給の申込みに伴いこの規程によるガスの供給を予定して本支管を敷設する場合にあつては、別に定めるところにより算定した工事費)が別表2の当社の負担額をこえるときは、その差額を工事負担金としていただきます。

注 一般ガス供給規程IIIの13の(3)

使用者の申込みによりその使用者のために設置する整圧器は、売渡しとし、当社は、とれに要する工事費を使用者からいただきます。

別紙三

一般ガス供給規程IIIの13の(7)のうち次の部分

(特定ガス発生設備によるガスの供給の申込みに伴いこの規程によるガスの供給を予定して本支管を敷設する場合にあつては、別に定めるところにより算定した工事費)

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